最も一般的な甲状腺機能亢進症はバセドウ病です。その他に甲状腺機能が亢進する病態として、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、ホルモン産生腫瘍、妊娠中の一過性亢進などがあります。甲状腺機能亢進では動悸、息切れ、頻脈、手の震え、体重減少、過食、下痢、不眠、イライラ感などが主な症状であり、代謝の亢進により、コレステロール値の低下がみられることがあります。バセドウ病では眼突といわれる特徴的な眼の症状や甲状腺腫大による頚部の腫れがあれば診断は難しくありませんが、これらの身体的特徴を欠く場合も多くみられます。
また、患者様自身も症状に慣れてしまって病的意識が乏しく、診断が遅れることも少なくありません。特に小児期の発症は稀であり、亢進症状があってもうまく不調の症状を伝えられないことも多く、イライラなども反抗期と思われてしまうなど、診断まで時間がかかることがあります。成人は、健診での肝機能異常やアルカリフォスファターゼの上昇で偶然にみつかる場合もあります。
バセドウ病を疑えば、血液検査により甲状腺ホルモンの上昇と原因抗体であるTRAbあるいはTSAbの存在により診断できますが、ホルモン上昇が軽度の場合や原因抗体が陰性の場合もあり、注意が必要です。まれな例として、甲状腺機能が正常なバセドウ病もあるため専門的な知識と経験が必要です。バセドウ病と診断できればまず内服治療を行います。メルカゾールあるいはプロパジール(チウラジール)の内服が第1選択であり、状態によって内服ヨードや頻脈を抑えるβブロッカーを併用します。妊娠出産を希望の女性ではプロパジール(チウラジール)の方が、胎児への影響が少ないと言われています。治療経過のなかでTRAbあるいはTSAbの陰性化とホルモン値の安定により寛解に至る症例もあります。メルカゾールあるいはプロパジール(チウラジール)に対する副作用で内服治療が不可能な場合、甲状腺腫が大きく難治性の場合、治療経過が長いなどの症例では、アイソトープ治療や手術を選択する場合もあります。亢進症状を感じたら甲状腺ホルモンの検査を受けましょう。更年期症状と似ているので女性の場合は特に注意が必要です。